ダイレクト向かい飛車はノーマル四間飛車やゴキゲン中飛車と比べると歴史的に新しい戦法で、アマでプロでもあまり指されないマイナーな戦法です。
しかしダイレクト飛車は、
- あまり指す人がいないので経験値の差を出しやすい
- 乱戦になりやすい
- 序盤で工夫できる
という特徴があるので、序盤好きで乱戦好きな人におすすめの戦法です。
それでは早速初手からダイレクト向かい飛車の指し方を見ていきましょう。
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ダイレクト向かい飛車の序盤の意味
ダイレクト向かい飛車は後手番で指されることが多いですが、一応先手番でも指すことができます。
後手番の場合は、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△4ニ銀▲4八銀△3三銀▲6八玉△2ニ飛の出だしでスタートすることが多いです。
従来では△2ニ飛ではなく△4ニ飛と途中下車して、のちに△2ニ飛と1手損する指し方が主流でした。(KKSこと角交換四間飛車)
しかしそれは1手損するのが不満だから欲張って手損なしに向かい飛車にしようというのがダイレクト向かい飛車の狙いです。
しかし△2ニ飛と途中下車をせず1手で回ると、▲6五角と両取りに打たれる手が生じます。
しかしそれはうっかりではなく織り込み済みの手で、▲6五角に△7四角と受けて▲4三角成に△5ニ金左と馬取りにあてます。

冷静に見てみると馬が詰んでいるのでこれで後手有利と言いたいところですが、ここで、
- ▲7五歩
- ▲同馬△同金▲7五金
と2つ返し技があります。
まず①の▲7五歩に△8五角と逃がすと▲6五馬で大失敗なので、△4三金と馬を取っておいて▲7四歩に△同歩と進むと駒の損得がない局面になります。
この変化も1局の将棋ですが、あまり人気がありません。
一方よく指されるのが②の変化で、▲同馬△同金▲7五金は一瞬角金交換になりますが、▲7五金と打てば角を取り返すことはできます。
以下このあとの展開の一例として下図のような局面になります。

後手は一歩損ながら金を手持ちにしているという他の定跡にはないかなりレアな局面になっています。
例えば部分的な筋として△4九角といきなり打ち込み、通常であれば▲5九金で角が詰んでいるのですが、△2七金と強引に飛車を奪うような指し方もあります。
一方後手として気をつけないといけないのは、持久戦の展開になったり、▲3七銀~▲4六銀から▲3七桂や▲4六歩~▲4七銀の形を作らせて先手に右桂を活用させる展開です。
これは4筋で一歩損している弱点がモロに突かれて苦しい展開になってしまいます。
この持ち金対一歩得定跡はプロの実戦でも多く登場していて、かなり奥の深い将棋になるので、研究と経験値が重要になってきます。
しかし基本的には後手側が経験値で上回ることができるので、面白く指すことができるでしょう。
本来守りの金を持ち駒にして攻めに使っていくことになるので、玉が薄くなりがちです。
そのため玉が薄いのが苦手な人はダイレクト向かい飛車を指しこなすのは難しいです。
ダイレクト向かい飛車から居飛車になる変化
持ち金対一歩得定跡は薄い玉になるという注意点がありましたが、別の変化では最初振り飛車にしたのに居飛車にしないといけない変化があります。

その変化はここから▲6五角△7四角までは一緒ですが、今度は▲同角と取り、△同歩に▲7五歩と指します。

▲7五歩に対して△同歩と取ると今度こそ▲6五角と打たれて両成りを受ける手がありません。
そこで▲7五歩には△7ニ飛と回り、▲7四歩△3ニ金▲7八金に△7四飛と歩を取り返すのが定跡の変化です。

局面的には7筋の歩交換を果たして後手も不満のない序盤ですが、元々振り飛車にしたくてダイレクト向かい飛車にしているので、居飛車になるのを避けることができないのは嫌な感じはします。
▲6五角から▲7五歩の変化を指されると居飛車にしなくてはいけないので純粋振り飛車党の人は注意
▲6五角と打たない変化
これまで紹介してきた▲6五角と打つのはダイレクト向かい飛車を全力で咎めにいった変化ですが、アマの場合は▲6五角を打たない派のほうが多いです。
なのでここからは▲6五角と打たない穏やかな変化をみていきましょう。
▲6五角と打たなければお互い囲い合いになり、後手としても主張が通るのでまずまずな展開です。
一例としては以下のような局面になります。

この局面から後手は色々方針を決めることができて、
- 美濃囲いにして△2四歩と突いて△4四銀~△3三桂から△2五歩狙い
- 美濃囲い~高美濃囲いから千日手狙い
- △3五歩~△2四歩~△3四銀と2~3筋で優位に立つ狙い
- 穴熊に組む
この4通りの指し方があります。
どれも1局ではありますが、途中下車をせずダイレクト向かい飛車にすることでリスクを犯して1手得をしたということを考えると、②の千日手狙いは1手の価値を下げるためあまり選びたくありません。
私の個人的おすすめは②の穴熊で、穴熊に組むのも意外と奥が深い将棋になります。
ダイレクト向かい飛車+穴熊
ここで、おすすめのダイレクト向かい飛車から穴熊に組んだ指し方の一例を紹介します。
先手側の囲いの種類としては、
- 矢倉
- 銀冠
- 一直線穴熊
- 矢倉→穴熊の組み換え
と、この4つが主に指されます。
ここでは1番スタンダードな矢倉に組んできた場合を想定します。
穴熊+逆棒銀

上図は先手が▲2五歩と飛車先を決めてから矢倉に組んでいる途中の局面です。
先手は▲6八金右から▲5六銀や、▲9六歩、穴熊の組み換えなどなど指したい手がたくさんありますが、後手は金をくっつけたらあとは有効な指し手があまりありません。
しかしこの局面ではいきなり△2四歩と飛車先を逆襲する仕掛けがあります。
以下▲同歩△同銀と進み、先手が何もしなければ△2五銀~△2六銀と突進する狙いを持っています。
なので△2五銀を防ぐ▲3六銀と受けるのが逆棒銀における部分的な手筋です。

▲3六銀と出た手は△2五銀と防ぎつつ▲4五銀と出る手も狙っていて味の良い手なのですが、このとき5八の金が浮くのが弱点で、△2七歩▲同飛△4九角と打つ手があります。

▲2八飛には△5八角成▲同飛△3五銀▲2八歩△3六銀▲同歩△4七銀・・・と進めば後手優勢です。
しかし上図では▲6六角と切り返すのが好手で、△2七角成▲2ニ角成の飛車交換は後手の6一の金が浮いているのと馬の位置の差で先手良しです。
そこで▲6六角には△4四歩と突き、▲同角△3三桂▲2八飛△5八角成▲同飛△3五銀とぶつけます。
ここで角取りになっているのが△4四歩と突き捨てておいた効果です。

▲3三角成なら△2九飛成と飛車を成りこんで後手良しになるのですが、▲2三歩△同飛▲2四歩△同飛▲2五歩と歩の連打で受けるのがしぶとい受けです。
以下△同桂▲3三角成に△2三歩と受けておいてどうか。

飛車を渡すと6一の金が浮いている弱点が出てダメそうに見えますが、桂馬を逃しているというのが大きいです。
また、△6九銀の割り打ちの筋や△4七角と打って桂取り+8三の地点に利かすことで▲8六香の筋を緩和する攻防の手も残っていて、実戦的には難しい形勢です。
穴熊に組んで逆棒銀はバランスが悪いので考える人は少ないですが、ダイレクト向かい飛車と穴熊を組み合わせることで通常の角交換振り飛車穴熊より1手得をしています。
そのため先手の駒組みが遅れていて、途中▲3六銀と受けたときに5八の金が浮く弱点ふぁあるので今回の逆棒銀が成立しました。
シンプルに飛車交換
逆棒銀の他にもシンプルに飛車交換を迫る指し方もあります。

この▲9六歩では仕掛けを警戒するなら▲6八金寄と金をくっつけておく必要があり、△2四歩と突く手が成立します。
▲同歩に今回も△同銀と逆棒銀を目指すのは、▲6六角△4四角▲同角△同歩▲4三角と打たれて失敗です。
金を寄っているのでこのような角の打ち込みに弱くなっています。
しかし金を寄って離れ駒がなくなっているので、△同銀ではなく△同飛とシンプルに飛車交換を目指すことができます。
以下▲同飛△同銀▲2ニ飛△2八飛▲2一飛成△2九飛成に▲4ニ角と打って離れ駒の銀を狙いつつ▲5三角成の筋も狙った手で後手が全然だめに見えます。

普通ならこの角打ちが痛いのですが、△6九角と打つのが絶好の一手で形勢が難しいです。
次に△7八角成▲同玉△7九金と打たれるとアウトなので何か受ける必要がありますが、▲5九桂は△5八角成▲同銀△5九竜で受けになっていません。
▲7九桂も△5五桂と打たれる手が厳しいので受けるとしたら▲6八金左しかありませんが、△1九竜と香車を補充しておいてどうか。

△8四香の筋やいきなり△8七角成から強襲する手など色々見えて先手としても嫌な展開です。
このようにダイレクト向かい飛車で1手得をした分、飛車先逆襲で手得を生かした仕掛けが様々あり、独自の感覚を要求されるので研究量と経験値が大事になってくるのがダイレクト向かい飛車穴熊の魅力です。
ダイレクト向かい飛車の棋書
ダイレクト向かい飛車はマイナーな戦法ですが、何冊か定跡書が販売されています。
ダイレクト向かい飛車を本で勉強したい人は、公式戦でもよく指している大石先生のダイレクト向かい飛車徹底ガイドがおすすめです。
やはり各戦法の定跡書を買うならその戦法を実戦でたくさん指している先生の本が1番いいです。
あと大石先生のダイレクト向かい飛車最新実戦ガイドという本もありますが、こちらはおすすめしません。
この本はなぜか相掛かりの棋譜が半分くらい載っていて、ダイレクト向かい飛車だけを勉強したい人にとっては相掛かりの棋譜は見ても参考になりませんので・・・。
ダイレクト向かい飛車をよく指すプロ棋士
ダイレクト向かい飛車をよく指すプロとしては、上記の本も書いている大石先生と、将棋連盟会長で現役A級棋士の佐藤康光先生です。
佐藤先生は先手番でもダイレクト向かい飛車を指すので、正直ダイレクト向かい飛車は佐藤先生の棋譜だけ追っていればいいと思います。
A級棋士なので対戦相手もトップ棋士ばかりのため、佐藤先生のダイレクト向かい飛車はあまり勝率が高くないですが、毎回工夫した序盤のためとても勉強になります。
ダイレクト向かい飛車は元々大山先生が最初に指していますが、現代将棋に復活させたのは佐藤先生がタイトル戦で連投したのがきっかけです。
大山先生のダイレクト向かい飛車は2局ほど確認されていますが、その2つの棋譜はダイレクト向かい飛車が流行してから知られるようになったもので、おそらく佐藤先生は自力ダイレクト向かい飛車の序盤を考えだしたはずです。
なので先駆者の指すダイレクト向かい飛車を勉強しない手はないでしょう。
ただ、佐藤先生のダイレクト向かい飛車はあまりにも個性的なので、初心者はおろか上級者も真似しにくいというのが問題ですが・・・w
プロが指したダイレクト向かい飛車の実戦解説
最後に佐藤先生が指したダイレクト向かい飛車の序盤を解説していきます。
相手は絶好調で勝率8割を超える好成績を叩き出していた及川先生で、2018年12月8日の朝日杯二次予選、持ち時間40分という早指しの1局です。
▲2六歩△3四歩▲7六歩△8八角成▲同銀△4ニ銀
▲4八銀△3三銀▲7七銀△2ニ飛▲6五角△7四角
▲4三角成△4ニ金(下図)

先程紹介したのは△5ニ金左と上がる手でしたが、佐藤先生は△4ニ金と真っ直ぐ上がるのを好んで指しています。
これに▲同馬なら△同飛と取り返し、▲7五金に△4七角成と突進できるので後手良しですが、4ニの金ではなく6一の金を取って7五に打つのが定跡です。
上図より
▲6一馬△同玉▲7五金△3五歩(下図)

この△3五歩と突くのが佐藤先生工夫の一手で、△4ニ金と上がったのは3ニの地点にも利かしておいてバランスを取ろうという狙いです。
上図より
▲6八玉△7ニ玉▲7八玉△6ニ銀▲7四金△同歩
▲4六歩△5四歩▲4七銀△3四銀▲6八金△2四歩
▲6六銀△3三桂(下図)

△3三桂と跳ねて、ようやく△3五歩と突いたときからの狙いの形を組み上げることができました。
この桂馬は4五に飛んでいく形にはなりそうにないですが、△2五歩▲同歩△同銀と逆棒銀で攻めたときに、▲3一角△3ニ飛▲4ニ角成△同飛に▲2五飛と銀をタダで取られないよう紐付けている意味合いがあります。
しかし気になるのは後手の玉の薄さで、現状銀1枚しか守りの駒がないので玉側で戦いを起こされるのが怖いです。
例えば上図から▲6五銀と歩の両取りに出る手があります。
ここで1番やってはいけないのが、歩の両取りに焦って△6四金と受けてしまうような手で、▲同銀△同歩と進むとお互いに金銀を持ち合って後手に何の主張もなくなってしまいます。
持ち金対一歩得定跡では金を手持ちにしているのは大きな主張なので、持ち金を受け一方の手に使ってはいけません
そこで歩の両取りは無視して狙い通り△2五歩と攻めるのが良い判断で、▲同歩△同銀▲7四銀に△2四飛と軽く浮いておきます。

▲2三歩から▲5六角や▲3一角の筋を消しつつ△5五歩から銀取りを見せる味の良い一手で、今度▲5六角と8三の地点を狙う手には△8四金とこの戦型らしい受けを用意しています。
この変化も玉が薄いので気になるところですが、実戦は先手がもっとじっくり指す手を選びました。
△3三桂の局面より
▲3六歩△同歩▲同銀△3五歩▲4七銀△6四歩
▲5六歩(下図)

3筋の歩を交換し、のちに▲1六角や▲3七桂~▲4五桂のような筋を見せてきました。
先手にはまだ指したい手がたくさんあるので後手は何か仕掛けたいところですが、この戦型らしい独自な仕掛けを佐藤先生が見せてくれました。
上図より
△6五歩▲同銀△6三金(下図)

△6五歩といきなり突っかけたのが驚きの仕掛けです。
並の発想は△7三桂と跳ねてから△6五歩と突く手ですが、桂馬を跳ねると▲7五歩と桂頭の傷が残るという判断でしょうか。
単に△6五歩に銀を引いてくれれば△7三桂と跳ねずに△6五歩と突く欲張った手を成立させてしまうため、実戦は▲同銀と咎めにいきましたが、そこで△6三金と持ち金を投入したのがこの戦法らしい一手です。
ここで金を温存して△6三銀で銀を狙おうとすると、▲3一角から金を取って▲5三金のような筋で一気に危ない局面になります。
先程持ち金を受け一方の手に使ってはいけないと言いましたが、自玉が危なすぎるときは例外で、その見極めも難しいところです。
しかし今回は6五の銀を△7三桂と跳ねて取りに行くという明確なビジョンが生まれたのでここで金を投入するのは成立します。
以下難しい中盤戦が続きますが、最後は及川先生の攻めをうまくいなした佐藤先生の勝ちとなりました。
序盤から腕力が必要そうな展開で、普通の人には指しこなすのが大変そうに見えますが、乱戦好きの腕自慢の方には興味深く思っていただけたのではないでしょうか。
まとめ
ダイレクト向かい飛車は振り飛車なのに居飛車をやらないといけない変化が出たり、薄い玉型で指さないといけなかったりと上級者向けの戦法です。
しかし上級者向けで指しこなすのが難しい戦法の分、ダイレクト向かい飛車を指す人は少ないのでまだまだ開拓の余地がある戦法だと思います。
この戦法に興味を持った方はぜひ1度実戦で指して、どんなものか体感していただければと思います。
向き不向きがはっきりしている戦法なので、何局か指して自分に向いているなと感じたら、本を買ったり佐藤先生の棋譜を並べてダイレクト向かい飛車を得意戦法にしてしまいましょう!
逆に乱戦は苦手で、とりあえず玉を囲いたいという方にはダイレクト向かい飛車とは違い、最低でも穴熊には囲うことのできるレグスペをおすすめします。
